尼崎市の新井司法書士事務所です。

実績

事件簿5(違約金請求事件)
 不動産事業者からのご依頼で、売主として建築条件付土地売買契約を締結した後、買主(個人)から契約を破棄されたので、その賠償を求めたいという相談。当初、内容証明により金銭の支払いを求め和解を試みましたが、相手方が応じなかったため、560万円の違約金支払請求訴訟を提訴(依頼者が原告)、相手方(被告)にも代理人弁護士が就き、法廷論争となりました。
 本事案は、売買契約締結時に手付金の授受がされなかったのですが、この行為が宅建業法に違反するのか、違反するとして売買契約が無効となるのか(売買契約が無効であれば、違約金請求権も発生しない)、という点が問題となりました。
 つまり、依頼者は宅建業者であり、商売上宅建業法の規制を受けるのですが、同法には「手付けについて貸付その他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引してはならない」との規定があり、本件において、手付金の授受をなさずに売買契約を締結した行為が「契約締結の誘引」にあたるか否か、仮に誘引行為にあたるとして、宅建業法違反行為が存在する売買契約そのものが無効になるのか否か、という点が最大の争点になるのです。
 ところで、「契約締結の誘引」があったか否かは、一見すると「事実」のように思いますが、深層は、手付金を授受することなく売買契約を締結するに至ったそれまでの事情や手付金を授受することなく売買契約を締結した際、契約当事者が手付金についてどのような取り交わしをしていたかなど、細かな事実関係の積み重ねにより結論づけられる「評価」という側面が強いのです。
 要するに、ただ単に、手付金授受がされずに契約を締結しただけで「誘引行為」にあたるとの結論に直結するわけではないのです。
そこで私は、誘引行為が存在しないという評価を導き出すため、契約締結に至るまでの事実関係を詳細に主張することにしました。
 本件は、買主が物件を気に入り早々に買い受けの申し込みをしておきながら、自己都合で契約締結予定を度々先延ばしにしてきた上、ようやく契約締結には至ったものの、今度は最終決済予定を度々先延ばしにし、最終的に売買代金の工面ができなくなり契約の破棄を申し出てきたもので、手付金の交付無しに契約締結に至った点や最終の代金決済に至らなかった点につき、依頼者には何の落ち度もなかったのです。
 買主は、現地を見て物件を気に入り、価格交渉を経て購入意思を固めたのであり、動機付けに何ら瑕疵はありませんし、売主が契約締結を迫ったという事情も一切ありません。
 当初、裁判官は、「宅建業法に違反するからあなた(依頼者)にも契約不履行責任がある」との趣旨の発言(被告を擁護するかのような発言=弁論主義違反)をし、これに連られ被告も、誘引行為が存在するから宅建業法に違反し契約は無効であるから違約金請求権も発生しない旨の主張をしていましたが、被告が自己都合で契約を度々延期していた点や原告が契約締結を急がせたことなどない点につき、こちらの主張が細かく繰り広げられる一方で、被告からは何ら具体性や説得力のある反論が出てきませんでしたので、次第に裁判官も「法理論だけで考えると誘引行為は無い=原告勝訴」という心証が形成されていきました(心証が形成されていっているように見受けられました、と表現した方が正しいでしょうか。)。
 被告からは、証拠調べ(本人尋問)の申し出までされていましたが、それまでの被告代理人の反論主張があまりにもお粗末であり、証拠調べの必要性は極めて乏しいと裁判官も考えたのか、結局、尋問には至らず、裁判官の強い和解勧告のもと、依頼者が辛うじて納得できる金額の支払いを受けることで和解し解決しました。
 本事件は、被告に反論事由は見当たらないものの(要するに結論=請求認容は見えている)560万円の支払いを命じるには、あまりにも負担が大きいと考えたのか、できるだけ低い金額で和解させようとする裁判官の考えが露骨でした。
 勿論、裁判官の考えも分からない訳ではありませんが、だからといって、被告が主張していないこと(契約締結の誘引)を裁判官が先走って発言することには、民事訴訟法上やはり問題があると思います。
 私が(専門家が)原告に関与していなければ、裁判官の誤った訴訟指揮により不当な結論となっていた可能性もあります。
 事件の筋を読むことと、事件の進行に応じて変化していく裁判官の心証を掴むことが大事だということを改めて感じた事件でした。


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